兄弟から突然「遺産分割協議書」が届いたら?

――慌てず冷静に進めるための5つのポイント

親が亡くなったあと、まだ気持ちの整理もつかないうちに、
兄弟から突然「遺産分割協議書」が送られてきた――。

「署名・押印して返送してください」とだけ書かれていて、
預金の金額や財産の内容については何の説明もない。
そんな状況に戸惑い、不安を感じる方は少なくありません。

実際、相続の現場ではこのようなケースが非常に多く見られます。
感情的になってしまいがちな家族間の相続問題こそ、
冷静に、そして法的に正しい手順で対応することが大切です。

この記事では、行政書士として多くの相談を受けてきた経験から、
「兄弟から突然遺産分割協議書が送られてきたときに取るべき対応」について、
5つのステップに分けて詳しく解説します。

1.署名・押印は絶対に急がない

まず最初に強くお伝えしたいのは、
届いた遺産分割協議書にすぐ署名・押印してはいけないということです。

一度署名してしまうと、その合意内容は原則として撤回できません。
つまり、内容をよく理解せずに押印してしまうと、
後で「知らなかった」「そんなつもりじゃなかった」と主張しても、
簡単には覆せないのです。

特に多いのが次のようなトラブルです。

  • 預金の一部が記載されていなかった
  • 不動産の評価額が不公平だった
  • 一部の相続人だけが得をするような内容になっていた

「兄弟を信じたい」「早く終わらせたい」と思う気持ちは自然ですが、
署名・押印は最後の手続き
納得できるまで中身を確認することが最も重要です。

2.財産の全体像を確認する権利がある

相続人全員には、相続財産を知る権利があります。

遺産分割協議を行う前に、どんな財産があるのか、
そしてどのくらいの価値があるのかを全員が把握しておく必要があります。

主な財産の種類は以下の通りです。

  • 銀行預金や定期預金
  • 不動産(土地・建物・農地・山林など)
  • 株式・投資信託・国債などの有価証券
  • 生命保険の解約返戻金や未請求の保険金
  • 自動車、貴金属、美術品などの動産
  • 借金やローンなどの負債

これらを正確に洗い出さなければ、公平な話し合いはできません。

兄弟に対して財産内容を求める際は、感情的な言葉ではなく、
次のように丁寧に伝えることがポイントです。

「協議に入る前に、相続財産の全体像を確認させてください。
預金残高や不動産の情報を共有していただけると助かります。」

法的に見ても、相続人には財産内容を把握する権利があります。
不明なまま進めること自体が不適切です。

3.自分で財産を調査することもできる

「兄弟が財産を教えてくれない」「情報を隠している気がする」
そんな場合でも、相続人本人が自分で調べることが可能です。

銀行口座の確認

銀行では、相続人であれば残高照会を行うことができます。
必要な書類は次の通りです。

  • 被相続人(亡くなった方)の死亡を証明する戸籍謄本
  • 自分が相続人であることを証明する戸籍謄本
  • 本人確認書類(運転免許証など)

これらを持参すれば、口座の有無や残高を調べてもらえます。
複数の銀行を利用していた場合は、地道に1行ずつ照会していく必要があります。

不動産の確認

不動産については、法務局で「登記事項証明書」を取得できます。
また、市役所で「名寄帳」を取得すれば、
被相続人が所有していた土地や建物をまとめて確認できます。

生命保険・証券口座など

保険会社や証券会社にも、同様に照会制度があります。
契約の有無を確認するための「契約照会制度」を活用すると便利です。

こうした手続きを行うことで、
兄弟の情報提供を待たずとも、相続財産の全体像を自分で把握できます。

4.専門家に相談することで冷静さを取り戻す

相続問題で一番厄介なのは、「感情」です。

兄弟姉妹であっても、財産の話になると関係がこじれやすくなります。
相手に悪意がなくても、言葉の行き違いや認識のズレが
トラブルを大きくしてしまうことも少なくありません。

そんなときこそ、第三者である専門家を間に入れることが有効です。

行政書士は、遺産分割協議書の作成や内容確認を行うことができます。
弁護士は、交渉や調停など法的対応を含めて支援できます。
税理士や司法書士とも連携すれば、
相続税申告や不動産登記までワンストップで対応が可能です。

専門家が関わることで、
「冷静に話ができる」「言いにくいことを代弁してくれる」などの効果もあります。
家族間の信頼関係を守りながら、公正に手続きを進めるための大きな助けになります。

5.話し合いがまとまらないときは「家庭裁判所の調停」

もしどうしても話がまとまらない場合は、
家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるという選択肢があります。

調停では、裁判官と調停委員が間に入り、
中立の立場から双方の主張を整理してくれます。
必要に応じて資料提出を求められ、
全員が公平な条件で話し合いを進めることができます。

調停は決して“裁判”ではありません。
あくまで話し合いの延長線上にある制度です。
「感情的にぶつかるのが怖い」「直接会いたくない」という方にとっても、
冷静な環境で協議できる大切な仕組みといえます。

6.よくある誤解と注意点

相続の現場では、次のような誤解からトラブルが生まれやすいです。

「兄が代表してやってくれているから安心」

→ 兄弟の誰かが代表で手続きを進めるのは一般的ですが、
 その人がすべての情報を正確に把握しているとは限りません。
 善意でも見落としがあることがあります。
 最終的な確認は、必ず全員で行いましょう。

「口頭で合意したからもう大丈夫」

→ 相続は書面で残すことが基本です。
 後から「言った・言わない」で揉めるのを防ぐためにも、
 必ず遺産分割協議書を作成しましょう。

「早く終わらせたいから印鑑だけ押す」

→ 最も危険なパターンです。
 内容を理解せずに押印した時点で、同意したとみなされます。
 急がされても、「確認してから押します」とはっきり伝えましょう。

7.冷静に、一歩ずつ進めることが家族を守る

ここまでの内容を整理すると、対応の流れは次の5ステップです。

  1. 署名・押印は絶対に急がない
  2. 財産の全体像を確認する
  3. 相手が教えてくれない場合は自分で調べる
  4. 感情的になる前に専門家へ相談する
  5. まとまらないときは調停を検討する

相続は、法律だけでなく“人の気持ち”が関わるデリケートな問題です。
だからこそ、「感情」よりも「手続き」を優先して進めることが大切です。

情報を整理し、納得してから署名する。
その積み重ねが、家族関係を守り、後悔しない相続につながります。

8.おわりに

兄弟や家族の間での相続トラブルは、誰にでも起こり得る問題です。
「相手が悪い」と決めつける前に、
まずは自分が正しい手順で行動しているかを見直してみましょう。

そして、わからないこと、不安なことがあれば、
早めに専門家へ相談してください。

相続は、手続きを正しく進めることで、
「争族(そうぞく)」ではなく「想族(おもぞく)」――
“想いをつなぐ相続”に変えることができます。

山岡正士行政書士事務所
三豊まちかど相続遺言相談室
(香川県三豊市)

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